サーバントリーダーシップ

人を活かすサーバント・リーダーシップの力 ~ vol.1 人の本質に根差したリーダーシップ

■サーバント・リーダーシップとは?

「悲しみと苦痛は、やがて『人のために尽くす心』という美しい花を咲かせる土壌だと考えましょう。」― ヘレン・ケラーの言葉です。
人に「尽くす」「奉仕する」リーダーをサーバントリーダーと言います。
サーバント・リーダーシップは、ロバート・グリーンリーフ (1904~1990)が提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という実践哲学です。グリーンリーフは言いま す。「サーバントリーダーはまず初めに奉仕したいという自然な感情があり、奉仕することが第一なのである。」
私は日本サーバント・リーダーシップ協会の理事長として、この哲学の普及に取り組んでいますが、「人に『奉仕したい』なんてことは綺麗事であって、そんなことを考えるのはごく一部の特殊な人間だけだよ」という反論を受けることがあります。本当にそうでしょうか?
3.11東日本大震災の後、日本中の人が「自分も何か被災された方々の役に立ちたい」と思い、「自分に何ができるだろうか」と問うたはずです。日本中どころか、海外でも多くの人がそう思ってくれました。
なぜなら、「人の役に立ちたい」「人に奉仕したい」という気持ちは人間が本来持っているものだからです。
 
■サーバントは人間の本質

20世紀末のグリーンリーフが提唱したサーバント・リーダーシップですが、その思想の起源は古く、聖書の中に見られます。
「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」が黄金律と呼ばれるように、聖書は他人への奉仕について何度も語っています。
「あなたがたの中で一番偉い人は、一番若い者のようになり、上に立つ人は、仕える者のようになりなさい。」「あなたがたの間で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、一番上になりたい者は、皆の僕になりなさい」
また、イエスが弟子の足を洗うシーンが有名な場面があります。当時、足を洗うという行為は、最高の謙遜を現していました。また、足を洗うというのは象徴的な愛の行為でもあります。イエスは身をもって、人に仕えることの価値を表現したのです。
このように二千年以上の長きに渡って伝承されている考えが、ただの綺麗事のわけはありません。「人に奉仕したい」「人に仕えたい」という考えは、人間の本質を表してるからこそ伝承されているのだと思います。
東洋においても同じ思想が昔からあります。
 
仏教では、「四無量心(しむりょうしん)」という考え方があります。
慈無量心 - 相手の幸福を望む心
悲無量心 - 苦しみを除いてあげたいと思う心
喜無量心 - 相手の幸福を共に喜ぶ心
捨無量心 - 相手に対する平静で落ち着いた心
このように、他人に奉仕する心の大切さを教えています。
 
論語には「仁(じん)」や「恕(じょ)」という言葉が出てきます。
「仁」は「他者を慈しみ愛する」事です。 「一生の訓戒となるような言葉があるのでしょうか?」と問われた孔子は、それは「恕」と答えています。「恕(じょ)」とは「他人を思いやる心」です。
また、孔子は「己の欲せざるところ、他に施すことなかれ」とも語っています。
ヒンドゥー教にも「人が他人からしてもらいたくないと思ういかなることも他人にしてはいけない」という教えがあるそうです。
 
■なぜ、人は「奉仕」するのか
 
「情けは人のためならず」という言葉があります。「他人に情けをかけておけば、めぐりめぐって自分にもよい報いが来る」とか、「人に親切にしておけば、必ずよい報いがある」という意味です。
自分が親切にしたその人が、今度は別の人を親切にし、そのような「親切の連鎖」が人々の間にめぐりめぐって、いつかは自分も誰かから親切にされることを述べています。
「風が吹けば、桶屋が儲かる」的な発想ですが、人が他人に「奉仕」する理由には、こういった打算的な面も確かにあるでしょう。
しかしそれ以上に、人が他人に「奉仕」する直接的な理由があるのです。 
人は他人に奉仕することで、欲求を充足し、幸せを感じるからです。
米国の医学博士・精神科医ウイリアム・グラッサー博士によると、人は誰でも「基本的欲求=インナードライブ」を持っているといいます。これは生まれ持った もので、人はこの「インナードライブ」を満たそうとして行動します。その結果、人は満足感や充足感などを感じ幸せな状態になります。
例えば、人は他人に奉仕することで、自分の存在価値を感じたり、やりがいを感じることができます。

人を笑顔にできたら、自分も笑顔になれます。
人を元気にしたら、自分も元気になれます。
人を癒すことで、自分が癒されます。

これは、人に「奉仕」することによって「インナードライブ」が満たされるからなのです。

このように、サーバントは綺麗事や道徳ではなく、人に元々備わった資質だと思います。
 

■誰でも発揮できるリーダーシップ

本来、リーダーシップは組織のトップや管理職にだけあるものではありません。どの立場でもリーダーシップは発揮できます。
例えば、子供たちが集まっているなかで、誰かが「次、○○して遊ぼう!」と言って、みんなが「やろうやろう」と同意して遊び始めたとします。この場合、その子供はリーダーシップを発揮したと言えます。
反対に、管理職であってもリーダーシップを発揮していない人もいます。
リーダーシップとは本来、肩書とは無関係なのです。
今回の大震災においても、各地で無名の人たちが素晴らしいリーダーシップを発揮しました。
政府や行政の人たちだけでなく、原発で決死の覚悟で取り組んでくれた現場 の作業員の方々、被災地で救出活動に携わった人たち、津波から住民を守ろうと懸命に活動した消防団の人たち、避難所でボランティア活動をした人たち、物資 の輸送に骨を折ってくれた人たちなど、彼らはいずれもサーバントリーダーです。
被災地以外でも、多くの人の心にサーバント・リーダーシップが芽生え始めました。

現在、あらゆる面で窮地に立つ日本を再興していくためには、多くの人がサーバントリーダーとして立ち上がる必要があります。

 

 

更新日: 2012年 01月 16日

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