サーバントリーダーシップ

人を活かすサーバント・リーダーシップの力 ~ vol.3 現実に成果をもたらす

サーバント・リーダーシップは、単なる道徳のように聞こえるかもしれませんが、
人間の本質に基づいた哲学なので、実は現実世界に適用した考え方でもあります。

何か事をなすときに多くの場合、一人ではできません。私たちは人の力を借りないと、
多くの目的を達成できないのです。ビジョンを描くことは一人でもできます。
しかし、共に取り組んでくれるフォロワーがいなければ、そのビジョンを実現することは
できません。

■パイクプレイスの奇跡 

アメリカ西海岸のシアトルに、世界で最も有名な魚屋さんがあります。
パイクプレイス魚市場の奇跡の復活と成功物語は『フィッシュ』という本やDVDとなり、
世界中の企業で教科書として活用されています。

私は先日シアトルに出張したのですが、アメリカ入国審査所で訪米歓迎の映像が
流されていましたが、その映像でも冒頭でパイクプレイス魚市場が紹介されていました。
アメリカ政府がこの小さな魚市場をアメリカの魅力の一つと認識しているのです。
これは本当にすごいことです。今回、このパイクプレイス魚市場のジョン横山社長と、
彼を指導したコンサルタントのジムのお二人に、じっくり面談することができました。

ジムと出会った頃の二十五年前の横山社長は窮地に陥っていました。
借金で倒産寸前までに追い込まれていたのです。社員の忠誠心は低く、彼らは仕事や
会社への不満だらけでした。

元来、横山社長は事業意欲も旺盛で、強い自信を持っていました。卸売業にも進出し、
社員が自分の言う通り動いてくれればうまくいくと思っていたのです。

ところが、現実は違う結果になっていたのです。横山社長は「なぜうまくいかないんだ」
という苛立ちを社員にぶつけ、毎日怒鳴りつけていました。

ジムは彼に尋ねました。「あなたは何者ですか?」「あなたはどういう人になりたいのですか?」
今まで聞かれたことのない問いかけに、横山社長は戸惑いました。

■世界で最も有名な魚屋さん

これをきっかけに、横山社長は徐々に自分の「あり方」を考えるようになったのです。
本来の自分は、部下を罵倒することを望んでいるのではない。できれば、部下とも
お互いに尊敬する関係でありたい。

やがて、横山社長は怒鳴ることを止め、部下の話を聴くようになりました。面白いことに、
横山社長の態度が変わると、急速に部下たちも変わっていったのです。職場の雰囲気も
改善していきました。

そのタイミングで、ジムは社員全員で合宿することを提案しました。
そこで、「自分たちはどうなりたいのか?」という問いに皆で取り組んだのです。
さまざまな意見が飛び交う中、ある社員から出てきたのが、
「世界で有名な魚屋になりたい」という想いでした。
横山社長もジムも最初は驚いたのですが、皆で話し合ううちに、「そうなったら誇りを
持って働ける。是非そうなりたい!」と。やがてこの想いが皆のビジョンになったのです。

そこから、「もし、すでに自分たちが世界で有名な魚屋だったら」と皆が考え始め、
働き方が変わっていきました。今までとは別人のように熱心に働き始めたのです。
また、自分たちの仕事は「単に魚を売る」ことではなく、魚を売ることを通して、
「お客様を幸せにする」ことだと考えるようになりました。

そこから、魚を投げるパフォーマンスが生まれ、魚の販売をエンターテイメント感覚で
行うようになったのです。倒産寸前だった小さな魚屋は全米から、いや世界中から
客が押し寄せるシアトル一の名所になりました。

どうしてこんな奇跡が実現したのかを横山社長に改めて聞いてみました。
彼はこう答えました。
「全てのきっかけは自分が変わったこと。以前は部下を手段と思っていた自分が、
部下を一人の人間として尊重するようになったことです」

■我慢の限界──社長の謝罪

サンクゼールはジャムやリンゴ酒、ワインといった商品を、生産から販売まで
一貫して行っている長野県斑尾高原にある会社です。国内に三十六店舗、
中国にも四店舗、アメリカでのビジネスも準備中の話題の成長企業です。
こう書くと、順風満帆に成長してきたように聞こえますが、実は大変な苦境を
乗り越えてきました。

久世社長は元々、夫婦で斑尾高原でペンションを経営していました。
奥様のお手製ジャムが好評で、ペンションをたたみ、ジャムを販売する会社を
設立したのです。

ジャムは売れに売れ、全国の百貨店に置かれ、直営店も出店しました。しかし、
ほどなく資金繰りに苦しむようになりました。状況はどんどん悪化し、
ついに久世社長は毎晩のように自殺を考えるまでに追い詰められました。
「今日死のうか」「明日死のうか」という日々が続いたそうです。

我慢の限界を超えたある日、久世社長は社員の前で謝罪しました。
「すまん。実は借金が大変で、この先、会社をやっていけないかもしれない」と
久世社長は告白しました。

「実はその時まで、私は自信満々で、自分は何でもできるスーパーマンだと思ってました。
だから、社員の意見など聞く必要はないし、俺の言う通りにやっていればうまくいくんだと
思ってました。だから、社員に本当のことは言えないし、弱みは見せられない」

■世界に飛躍するサンクゼール

久世社長はこの日の告白と謝罪で、社員は愛想を尽かして皆辞めていくだろうと
思っていました。ところが、結果は逆でした。社員は、「社長、何言ってるんですか。
こんな状況だからこそ、皆で力を合わせて頑張りましょうよ」「社長が本音を話して
くれて嬉しかったです」と言って励ましたのです。

久世社長は、自分がいかに社員を信用していなかったか。
彼らの力を活用していなかったか。そして、社員を見ずに自分のことばかり
考えていたかを反省しました。ここから、社長と社員は変わったのです。

久世社長は「自分はどんな人間でいたいのか」と自問自答しました。
そして、社員を人として尊重するリーダーとなることを決意しました。
また「この会社をどんな会社にしたいのか」を徹底的に考えた結果、
「黄金律を大切にすること。相手を尊重し、差別をしない広い心で、
自分にしてもらいたいことをまず相手にする心を大切にする」という
サンクゼールの価値観や理念を明確にしたのです。

あとはひたすら、価値観浸透を図り、取り組む社員を全力で応援しました。
今でも毎週二時間を割いて、価値観・理念について話し合う時間を
設けているそうです。「社員は今までの三倍働いてくれるようになった」と
久世社長は言います。
そして、奇跡的に苦境を乗り切り、そこから、サンクゼールの快進撃が始まったのです。

 

 

更新日: 2012年 03月 28日

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