サーバントリーダーシップ

人を活かすサーバント・リーダーシップの力~ vol.4 スポーツ界に増えるサーバント・リーダー

■君臨型リーダーの特徴

サーバント・リーダーシップとは対照的なリーダーを、私は「君臨型リーダー」と呼んでいます。
特徴は次のようなことです。

・強烈な個性
・何でも明快に言い切れる自信にあふれた態度
・結論が早い
・自分の考えが明確で、メンバーや周囲に左右されない
・強烈にメンバーを引っ張っていく
・大きい声で主張する

君臨型リーダーが最も多いのが、スポーツ界かもしれません。昔から、鬼監督、
鬼コーチがいたから優勝したというような話が数多くあります。

古い話で言えば、東京オリンピックでバレーボール全日本女子チームに
金メダルをもたらした博文監督。「鬼の大松」と恐れられるスパルタ教育で
選手を鍛え上げ、「東洋の魔女」と呼ばれるまでに成長を遂げました。
「おれについてこい!」という名文句は映画のタイトルにもなりました。

現在で言えば、星野仙一監督が印象的です。「ダメ虎」と言われた
阪神タイガースに乗り込み、闘将として活躍し、阪神を優勝させたのは
記憶している方が多いのではないでしょうか。

■新しいタイプのリーダー

ところが、近年、スポーツ界においても君臨型ではないタイプのリーダーが
成功するケースが増えてきました。なでしこジャパンでW杯優勝という快挙を
成し遂げた佐々木則夫監督。栄えある国際サッカー連盟の最優秀監督賞も
受賞しました。しかし、佐々木監督はスポーツの指導者にありがちな強面な
タイプではなく、気さくで穏やかな人柄のようです。
君臨型リーダーとは程遠いリーダーです。

監督は日経ビジネスのインタビューでこう語っています。
「マネージャーである私自身の考えが間違っていることもある。その際、
『監督が間違っている』と選手が言ってくれる。そこで、自分の問題に気づかされます。
真っ当な指摘であれば受け入れる。選手の言動によって監督が学ぶことは
たくさんあるのです。部下が『間違っている』と素直に言える体制作りは必要ですね。
トップの過ちを部下が言える風通しの良い環境が、お互いにとっての信頼関係を
構築する条件になるからです」

この言葉の通り、監督は選手の意見なども取り入れながら練習メニューを変え、
自分のやり方を一方的に押し付けることなく、選手の自主性に任せる方針で
チームの力を引き出しています。
一方で、いちばん得点力のある澤をボランチ(中盤)に下げるという明確な戦略や
ビジョンを示しながら、同時に選手たちが作戦に情熱を持って取り組めるように、
メンバーに権限委譲をしたり、 メンバーを支援しているのです。

■落合監督と小川監督

プロ野球においては、リーダーシップという観点で注目に値するのは
中日の落合博満監督とヤクルトの小川淳司監督でしょう。
二連覇を達成しながら退任した落合監督ですが、八年間でリーグ優勝四回、
日本一が一回と、素晴らしい成績をあげました。

ご存じのように、落合監督は現役時代、三冠王を三度も手にする、
とてつもない記録を残した選手です。普通、このような大選手が監督になると、
「おれの言う通りにすればうまくいくから」とばかりに君臨型リーダーシップを
発揮しがちです。ところが落合監督は違いました。週刊ダイヤモンドのインタビューで
こう答えています。

「どんな世界でも人は育てられないと受け止めており、それならば自己成長しようと
取り組んでいる若手の邪魔をしなければと考えてきた。彼らの行動に常に目配りと
気配りを怠らず、職場の雰囲気を自己成長できる環境に整えるのだ」

自分が選手を育てるのではなく、自分は「選手の自己成長」を支援する立場だと
しているのです。

またテレビのインタビューで、「なぜ、試合中に喜んだり怒ったりといった感情を
一切出さないのですか?」と聞かれ、こう答えていました。

「自分が感情を露わにすると、選手が緊張したり萎縮する。だから、出さないようにしている。
俺だって腹がたつこともある。だから、毎回イニングが終わる度にベンチを離れ、
監督室に戻り、そこで一人感情を発散させて、気分を入れ替えてベンチに戻ってるんです。
だから、ベンチでは無表情でいられる」

常に選手の立場を考え、彼らが活躍しやすい環境を作ることに専念している落合監督は、
君臨型リーダーとは随分違うタイプです。

ヤクルトの小川監督は、一昨年、監督代行で就任して以来、最下位からの
スタートにも関わらず最高勝率を達成。正式な監督として臨んだ昨シーズンは、
あと一歩で日本シリーズ進出は逃しましたが、常に優勝争いを繰り広げました。
日経ビジネスのインタビューで監督はこう語っています。

「こんな立場にいながらも『マネジメント』を意識したことはありません。
みんなを『優勝したい』と思わせることだけに集中しています」
「選手たちに試合で結果を出してもらうための環境作りが、『監督』という僕の仕事の
すべてだと思っています」

“勝てば選手のおかげ、負ければ監督の責任” に徹する小川監督も、
君臨型リーダーとは対極にあると言えます。

■星野監督のリーダーシップ

実は、最初に君臨型リーダーの代表としてあげた阪神時代の星野監督も、
一概に君臨型リーダーとは言えないのです。テレビでは、鬼の形相で叱り、
怒る姿だけが面白おかしく映し出されていましたが、それは星野監督の
ほんの一面です。むしろ、マスコミ向けのパフォーマンスでさえありました。

例えば、キャンプで右足をしてリタイアした若手に、「ケガ? ツバでもつけとけ」と
他の選手やマスコミの前で怒鳴ったことがありました。恐らくそれは半分ジョークで、
残りの半分は・怒声・によってグラウンドに緊迫感を生み、選手の怪我を未然に
防ぐ効果を狙ったものだと思います。

少なくとも選手を見捨てたり、コマとして軽く見ているのではありません。
それが証拠に、後ほどコーチを通じてその選手の状態を詳しく調べ、
フォローしていたのです。選手には一見厳しいのですが、選手の奥さんの誕生日には
花束をあげるような気配りをしていたのは有名な話です。

監督就任時には、甲子園球場に球団の職員、球場関係者、グラウンドを整備する
会社の人たちに集まってもらい、「これから一年、みなさんにお世話になります。
ぜひ協力してください。お願いします」と言って頭を下げたといいます。

いくら自分が元はすごい選手で、今は有名な監督になったとしても、
実際に戦うのは選手であり、その選手をサポートするのは関係者などの裏方さんです。
そして、その全ての人が活躍できる環境を作り、支援するのがリーダーたる監督の仕事です。
一見、自己中心的な君臨型リーダーに見えて、実はサーバントリーダーの要素を
いっぱい持っていたのでしょう。

だからこそ、

「星野監督のために」
「監督を男にしたい」

と選手が言ったのです。

成功しているスポーツチームの指導者は、知らず知らずにサーバント・リーダーシップを
発揮しているのです。あなたが応援するチームの中にサーバント・リーダーシップの
要素を発見するのも、スポーツ観戦の新しい楽しみ方になるかもしれません。

 

 

更新日: 2012年 05月 31日

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