サーバントリーダーシップ

人を活かすサーバント・リーダーシップの力~ vol.5 サーバント・リーダーシップを発揮する企業

■ヤマト運輸の志

サーバント・リーダーシップの根本は、「奉仕したい」「支援したい」という人への思いやりや
人間愛です。東日本大震災後、多くの人が自然とサーバント・リーダーシップを発揮しました。
個人だけでなく、企業においても、サーバントな発想で行動している会社があります。

先日、ヤマト運輸の瀬戸会長の講演を聞きました。震災後の4月に、宅急便1個につき10円を
寄付することにしたのです。10円と聞くと、わずかな金額だと思われますが、今年の1月時点で
120億円という金額がすでに寄付されているのです。3月末までには140億円になるそうで、これは、なんとグループの年間純利益の40%にあたるというのです。

ヤマト運輸がヤマト福祉財団を経由して、東北地方の農業や水産業、林業の復興に使われるそうです。
ただ普通に寄付をすると約50億円が税金に取られてしまうのです。少しでも多くのお金を被災地に届けたい。
そこで財務省と交渉をしたといいます。

当初、財務省は、「志はわかるが、法律だから何ともならない」と断る一方でした。
しかし、ヤマト運輸の志を知った応援団がどんどん増えてきたのです。そういった人たちの
支援もあって、寄付金をなんと全額、被災地に送る仕組みができたのです。
これは本当に画期的なことです。

■「何でもやる。やらせてくれ」

2月19日の日経新聞には、ヤマト運輸に関して次のような記事が掲載されました。

「会社の機材を現場が勝手に使った。上司や本社への報告も皆無。タダ働きだから売り上げ
にもならない。ふつうなら規則違反で厳罰」
これは、東日本大震災の被災地の支援に社員が自発的に行動した話です。震災発生の数日後、
地元ではヤマトの社員が役所にまで出向き、救援物資の配送をさせて欲しいと願いでたのです。
自分も被災者なのに、「何でもやる。やらせてくれ」と直談判したといいます。

しかも、こういった出来事がいくつもの場所で同時多発していたのです。そして、この時に
社員たちは会社の機材を勝手に使ったのです。もちろん上司や本社へ報告している状況ではありません。
仕事ではなくボランティアですから、当然タダ働きです。
このことを知った木川社長は、驚き、感動のあまり涙を流したと告白しています。
当然、厳罰どころか、彼らを誇りに思ったのです。

■DNA

どうして、こんなことができるのでしょうか。インターネット上のあるサイトのインタビューで、
木川社長は、「それはヤマト運輸のDNAだ」と言います。

<ヤマト運輸 社訓>
一、ヤマトは我なり
一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし
一、思想を堅実に礼節を重んずべし

これがヤマト運輸の社訓です。
これが社員に浸透しDNAとなっているというのです。「ヤマトは我なり」とは「一人ひとりが
会社の代表である」という意味です。
ヤマト運輸の従業員数はグループ全体では17万人です。ところが本社の人員は
わずか300人もいないのです。本社が現場を全部コントロールをすることなど到底できません。
「どんどん自発的に考えてやりなさい」と現場に権限を渡しているのです。

自発的に動いた社員を支援するために、会社もすぐに動きました。東日本大震災からわずか
12日後の3月23日、ヤマト運輸として、被災地支援の組織を作りました。
トラック200台、人員500人の「救援物資輸送協力隊」を編成し、食糧や生活用品などの
救援物資を運んだのです。

DNAを発揮する社員を会社は全力で支援したのです。社員一人ひとりがサーバントであり、
会社もサーバント・リーダーシップを発揮していると言えます。

■源流

こういったサーバントなDNAはどうやって生まれたのでしょうか。私は故・小倉昌男社長に
源流があると思っています。

2002年に、私は小倉昌男さんの勉強会に参加しました。
小倉さんは宅急便を生み出した現在のヤマト運輸の生みの親です。小倉さんは宅急便を
発明した後も、宅急便サービスをどんどん進化させました。
「人にして欲しいと思うことをせよ」という黄金律をビジネスの中で実践してきました。
それが時間別の配達であり、クール宅急便なのです。

勉強会で小倉さんはこう語りました。
「お客様へのサービスは第一線の社員がやる。社長がやるわけではない。社長は一円も
稼がない。だから、第一線の社員が社長と同じ考えで【サービスが先、利益が後】って
思ってくれるような労働ができるような会社にすることを考える」

小倉さんは「サービスが先、利益は後」という考え方を徹底しました。優先順位を明確にする
ことで、従業員が迷わずに行動できるように支援したのです。

「社員がやる気の起こる方法を考える。第一線の社員がやる気を起こすか、起こさないかで、
このビジネスの勝負が決まると考えました。そうしたら、命令や監督をしない労働を
実現しなきゃいけないと思ったわけです」

「【命令しない、監督しない労働】ってことは【自発的、自立的な労働】ってことです。
では、どうしたら実現できるか? 
私は【全員経営】という言葉を考えました。全員で経営するんです」

サービスを向上させて顧客満足度を上げるには、社員がやる気になることが必要です。
その時に理解しておくべきことは、「人間は基本的に、細かく指示されると不愉快になり、
任されて自主的にやらせてもらうと気持ちが良い」ということです。
ですから、経営の目的や目標は明確に示すが、仕事のやり方は基本的に社員に任せ、
自分の仕事には自分自身が責任をもって当たらせるという「全員経営」の方針は理に
かなっているのです。

小倉さんは「全員経営」を遂行するために、年功序列を排し、社員の能力を重視かつ
評価するとともに、社内のコミュニケーションが中間管理者によって阻害されないよう管理階層を
フラットにしていったのです。

小倉さんのサーバント・リーダーシップは本業にとどまりません。小倉さんは障害者支援にも
大変力を入れました。障害者によるパンの製造販売の「スワンベーカリー」を設立し、障害者の雇用と
自立支援を促進しました。

■公益資本主義

最近生まれた「公益資本主義」という言葉があります。これは近年の「会社は株主のものであり、
経営は企業価値・株主利益の最大化を目的とすべきである」という過度な利益至上主義への
アンチテーゼとして生まれた考え方です。

会社を社会的存在ととらえ、株主への利益還元のみを優先するのではなく、従業員の働きがいや、
顧客・取引先、あるいは地域社会・国家など社会全体への貢献をバランス良く重視する考え方です。
これは、企業におけるサーバント・リーダーシップの精神の具現化であり、ヤマト運輸はその実践企業だと
思います。

 

 

更新日: 2012年 07月 06日

一覧へ戻る