カロルトン警察署の事例

カロルトン警察署

テキサス州カロルトンは、ダラスの北西に位置し、115,000 人強の市民が住むベッドタウンです。カロルトン警察署(CPD)には、161 名の法務執行官(正規の警察官)、78 名の民間人職員、25 名の予備警察官、そして40 名の交通指導員がいます。署内には、管理課、捜査課、運用課があります。

警察署は厳格な指揮統制の下に活動します。しかし、テキサス州カロルトンでは、警察は従来のあり方を否定し、サーバントリーダーシップのスタイルを築く努力を行っています。

このドラマチックな事例には、街の複数の地域で車上荒らしを劇的に減少させたボランティアチームの存在なくして語ることはできません。
サーバントリーダーシップ哲学は、デイビッド・ジェイムズ警察署長によって初めてCPD に導入されました。彼は、当時も今もアメリカで非常に人気のある「ヒーロー的リーダー」モデルを否定したグリーンリーフのエッセイ「The Servant as Leader」を読んでいました。グリーンリーフは「ヒーロー的リーダー」ではなく、権力、地位、あるいは金銭に対する個人的な野心よりも他人の成長を優先するリーダーシップの重要性を示しました。ジェイムズは、自分自身が信じるリーダーシップはこれだ、と即座に感じたのです。

「サーバントリーダーシップは、効果的なマネジメントスタイルの重要な要素の一つです。
それは、複雑な警察を織りなす一本の糸であり、市民の日々の出来事に目を向ける一貫性と思いやりをもたらすのです。」とジェイムズは言います。

「私たちは、TD インダストリーズやアン・マギークーパー&アソシエイツのようなサーバントリーダーシップ実践に取り組んでいる他組織に非常に勇気づけられています。」とジェイムズは続けます。「この2社がダラスでサーバントリーダーシップ学習組織(SLLC)を結成した時に、私達はSLLC への参加チャンスに飛びつきました。」

ジェイムズ署長はその後一線を退き、マック・トリスタン副警察署長に署を代表してSLLC に参加させる事としました。マックにとって、この年の4 度の集会は彼の決意を新たにさせ、それと同時に、サーバントに導かれたダラスの他組織のリーダー達との繋がりを作るきっかけとなりました。マックは常に、彼自身の挑戦と成功を正直に発表するため、彼はSLLC の皆から敬意と感謝を受けているのです。

ロバート・グリーンリーフの壮大な夢はジェイムズを通してCPD を訪れ、その上、マック・トリスタンというもう一人のサーバントハートの持ち主を発掘しました。そして、マックはSLLC 集会で学んだ事を迷わず自分のチームに持ち帰りました。

警察と市民の比率は1:1000 くらいなので、通常の警察の仕事は受身です。警官は「緊急」事件と定型業務(「金のための仕事」)に全ての時間を使い、頻発する問題を解決する事、リーダーシップの開発をする事、あるいは、学習する組織の規律を実践する事のような重要な業務を行う時間的余裕はありません。マックは、指揮統制の厳しい階層型組織を何年も経験した後、新しい警察活動のモデルスタイルを作りたいと考えました。

CPOP の牽引力

警官に権限を与えるというマックの熱意は、署内のボランティアで構成された地域問題志向警察活動(CPOP)ユニットに大きな刺激を与えています。CPOP が始まった2004 年5 月、マックは警官達を集め、警察署をどうしたら改善できるか、についてだけでなく、地域へのサービスをどうしたら改善できるか、についても話し合いました。警官達が以前からやりたいと思っている事に従って行動させる事で、彼らの情熱に火をつけるというのが、マックの考え方でした。

マックは、カロルトンでの急を要する犯罪動向に対処するだけでなく、反論を受けない率直な意見を述べる事ができる公開討論会を開きたいと考えました。積極的かつ前向きに、このグループに共力しようとする彼の姿勢のお蔭で、警官達はマックの「有言実行」の誠実さを信頼するようになりました。

このチームの一番の目的は、CPD 内で勤務時間や管轄地域が異なる22名からなる4つの警ら隊がもっと効果的にコミュニケーションを取るようになる事でした。二番目の目的は、難しい問題に取り組み、このような自発的なサーバントリーダーシップの効果を見せることでした。チームの10 名の警官がミーティングを実施し、CPOP という名前と議長を決めました。彼らは月に2回集まり、マックはわざとそのミーティングを時々欠席する事で、警官達が意思決定者なのだというメッセージを一貫して伝えたのです。
マックはいくつかのガイドラインを与え、このガイドラインに従っていれば警官達は自由に意思決定して良いとしました。何か問題の解決策を考える時、チームは次の質問全てに対する答えがイエスだという合意を得る必要があります。

・倫理的に正しいか?
・法に従っているか?
・地域にとって適切か?
・CPD にとって適切か?
・私達のポリシーと価値観に適合しているか?
・責任を取れるか、あるいは、誇りに思えるか?

この質問全てに対するチームの答えがイエスだったならば、次に実行計画を立てて実施する事ができるのです!

「不可能」を解決する

チームが取り組む事にした最初の犯罪問題は、地域で今問題になっている車上荒らしの問題でした。
「もし、この地域で車上荒らしを減らす事ができたとしたら、どうなるだろうか?」マックはチームに対して尋ねました。警官達の内、数名がこのばかげた提言に対して皮肉な笑いを漏らしました。これは不可能に見える解決策の例なのですが、マックはグループの集合知とサーバントリーダーシップの精神があれば、成し遂げる事ができると信じていたのです。

警察署は1件の車上荒らしの捜査に毎回30 時間を費やしており、それを大幅に削減したいと考えていました。そこで、彼らは最も多くの窃盗事件が起こっている地域をターゲットにする事から始めました。この事が彼らの成功の大きな要因になったのです。もし市全体に焦点を当てていたら、彼らは失敗していたに違いありません。

彼らはその地域の住人一軒一軒を訪ねてコミュニケーションを取り、留守の場合にはチラシを置いていきました。夜間勤務の担当は、街灯が消えている箇所を報告しました。「H.E.A.T.(自動車窃盗をなくそう)」活動を宣伝する道路標識が掲げられました。

警官達は、巡回区域を歩いたり、バイクで回ったりする時に、車のフロントガラスに置いてくる成績表を作りました。もし車に鍵が掛かっており、中に貴重品が見えなければ合格点をもらえました。反対に、もし車に鍵が掛かっていなかったり、貴重品が見えていたりすれば、(理由と共に)落第点がつけられました。ついに地元マスコミがこれに気づき、何が起こっているのかを尋ねるようになり、結果的に、CPD はその活動を促進する宣伝を無料でしてもらえるようになったのです。

結果は目覚ましいものでした。車上荒らしの合計数が最初の8 ヶ月で94%も減ったのです。2006 年には、車上荒らが通報されたのはたったの2件となりました。チームは2番目、3番目のターゲット地域に移動し、2005 年の最初の3ヶ月では車上荒らしは1件も通報されなかったのです。2006年半ばまで、83%も減少したのでした。

この「不可能な」功績を成し遂げた警官達と話す事は、サーバントリーダーシップの精神を掴む事-変革をもたらすのに最も適した位置にいる人が、そのための権限を与えられた時に解き放たれる情熱とエネルギーを見て、感じること-なのです。

                             書籍『Being the Change(NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会)』
                             著者:アン・マギー=クーパー、ゲイリー・ルーパー、デュエイン・トランメル
                                                 (株式会社レアリゼ 訳)より抜粋