L.E.T. (Leader Effectiveness Training)の専門家 辻 達諭氏と弊社真田との対談
L.E.T. (Leader Effectiveness Training)の専門家辻 達諭(つじ ...
大澤 千恵
変革期にあるミサワホームの事業戦略とダイバーシティ
ホームページ:https://www.misawa.co.jp/
真田:堤内さんは、2017年4月にミサワホームに移られるまで、トヨタ自動車で主に人事と経理の部門でご活躍されてきたとお聞きしました。これまでの経緯を簡単にお聞かせいただけますか。
堤内執行役員:米国と中国での赴任時代も含めて人事を約20年、その後、経理・財務畑の仕事に約10年携わってきました。当社に来る直前は、トヨタの関連会社計126社の経営動向を収益や投資を含めた事業計画の観点からチェックする立場にあり、当時からミサワホームの経営を外部の目線で見ていました。そんな折、2016年にトヨタホームとミサワホームとの資本業務提携がなされました。そこで私は主に人事や経営の立場から、ミサワの経営力を高めるとともに、トヨタグループとの連携を強化して新たな付加価値を生み出していくことを目的に、当社に着任したわけです。
真田:なるほど。本日はぜひ御社の人事政策や人材育成についてお聞きしたいと思っております。まず、その前提となる今後の事業戦略についてお聞かせください。
堤内執行役員:当社の主力事業である戸建て住宅事業については、収益性強化のための構造改革を進めています。国内の人口減少が続く以上、戸建て住宅市場が徐々に縮小していくのは当然ですが、仮に販売棟数が増えなくても、利益率を高める余地はまだまだあるはず。そこで、施工原価をはじめとするコスト構造を明確にして標準化するなど、売上原価を低減していく全社的プロジェクトを立ち上げました。
また、住宅販売に「バリューチェーン」の発想を取り入れています。トヨタでは、自動車の販売時にアフターサービスや自動車保険など周辺のさまざまな付加価値=バリューチェーンをどれだけ取り込めるかを重視しています。住宅販売においても同様に、解体工事や外構工事、部屋のインテリアコーディネート、住宅ローンの提案・斡旋まで、周辺の付加価値をどれだけ獲得できるかは収益力を左右するはずです。これまでミサワでは、戸建て住宅の販売棟数が評価の基準になっていましたが、これを見直し、どれだけバリューチェーンを獲得できたかを評価する枠組みを取り入れました。
収益力の強化には、もちろん主力商品自体の魅力を高める努力も欠かせません。すなわち安くて質の優れた住宅商品を生み出す開発力が重要で、昨年からデザイナーの処遇改善をはじめ、デザイン部門の立て直しに着手しました。
私はミサワの真の強みは、未知の分野にどん欲に挑んでいくフロンティア精神にあると考えています。しかし近年は堅実路線が強まりすぎ、技術開発のような未来に向けた投資が疎かになっていたのではないかと感じています。今後は技術員の育成や開発投資にも一層力を入れていきたいと考えています。
真田:戸建て住宅以外の分野についてはいかがですか。
堤内執行役員:ミサワの未来を見据えて、戸建て住宅に続く新たな収益の柱を打ち立てていく必要があります。
1つは、まちづくりを含めた総合的な不動産開発の強化です。2017年度からの中期経営計画にもあるように、高齢化の進展に対応したコンパクトシティ型の不動産開発などまちづくり事業に積極的に取り組んでいます。ミサワ独自のまちづくり事業ブランドを立ち上げ、すでに第一弾プロジェクトが千葉県浦安市で今春から稼働しています。
もう1つは海外での住宅・不動産事業の強化です。海外展開は有望な海外企業への出資などに急速に力を入れています。具体的にはオーストラリアでの住宅事業を本格展開していく計画です。
さらに中長期的には、トヨタとのシナジーを最大化していくことも重要です。すでに自動車の情報化・IT化が急速に進んでいますが、これに人工知能(AI)や自動運転技術が本格的に加われば、自動車の概念は劇的に変わるでしょう。「クルマ」から「モビリティ(移動手段)」へ。自分でクルマを運転して目的地まで行くのではなく、自宅で家族と談笑しているリビングルームがそのまま移動して目的地に運んでくれるような「スマートモビリティ社会」が、そう遠くない未来に実現するでしょう。街とモビリティの融合が進めば、さまざまなビジネスチャンスが生まれます。戸建て住宅や不動産開発の知見と人材を蓄積し、なおかつトヨタとの連携を持つミサワは、おおいにその強みを発揮できるはずです。
★参考
①戸建て住宅の利益構造の改革
②戸建て住宅の収益力の強化
③街作りを含めた総合的な不動産開発の強化
④海外展開の強化
⑤スマートモビリティ社会の実現プロジェクト
真田:事業戦略が大きく変わる中で、それを支える人事や教育のあり方も見直しが求められるのではないでしょうか。
堤内執行役員:その通りです。少なくとも、国内の戸建て住宅事業だけを前提とする人事・教育の枠組みでは、これからは対応できません。
既存の戸建て住宅事業の収益力を高めていくと同時に、スマートモビリティのような戦略部門にも今から注力していかなくてはならない。どちらも相応の人材が必要ですが、しかし社内のリソースは限られます。各部門のコンセンサスを得ながら人員をバランスよく配置し、それでも足りなければ、社内で育てるか、外部からひっぱってくるしかない。
具体的には経営戦略会議で新規事業の要員や人材候補の方針を明確に打ち出し、人選を各部門に決めてもらうという方法をとります。特に海外事業やスマートモビリティ事業は、優れた専門性を備えた外部人材を積極的な取り込まなければ成果は出せないでしょう。その意味で、今後は中途採用に力を入れていくことになると思います。
外部人材を取り込むだけでなく、社内人材を国内外のパートナー企業に送り込んで、まったく新しい経験を積ませることも重要です。例えば当社の営業社員に、ぜひ信託銀行の仕事を見てきてほしい。資産家たちがどんな考えに基づいて土地・不動産を運用しているのかが学べるでしょう。その経験は住宅販売や不動産開発に必ず活きてくるはずです。
変革の気運を社内に醸成していくことも重要です。管理部門は「今までそうだったから」「前例がないから」といった思考にどうしても陥りがち。そうではなくて、ミサワの未来にとって最も相応しい人事・教育の枠組みとは何かをゼロベースで考えるよう、強く働きかけています。もともとミサワは優れたフロンティア精神を持った企業のはずですから、その風土を取り戻してほしいのです。
真田:人事部門の機構改革の一環として、18年4月に「人財開発部ミサワインスティテュート」が発足しました。これには、どのような狙いがあるのでしょうか。
堤内執行役員:新卒採用の社員たちを中心に、従来とはまったく違った人材育成の枠組みを構築するのが狙いです。「インスティテュート」という、社内組織としては耳慣れない言葉をあえて使ったのも、ミサワが本気で人材育成の抜本改革に取り組もうとしていることを、社内外に伝えたかったからです。
もちろん、まず優秀な人材を獲得することが大切で、昨年から採用のプロセスを全面的に見直しました。しかし、せっかく良い人材が入社してきても、社内に育成できる仕組みがなければ意味がありません。
彼ら・彼女らを30歳までにプロフェッショナル人材に育て上げたい。だとすれば、それまでの約8年間に何をやらせるべきか。一人ひとりの適性や各事業部門に求められる能力をしっかり見極めながら、キャリアマネジメントの発想で戦略的に配置を決め、経験を積ませていく。当社では、入社後3年間は営業現場に勤務させますが、その期間も現場に任せっきりにせず、階層別教育の中で学ばせるべきことをインスティテュートの主導で提供していく仕組みにしました。
人を育てるのは時間がかかります。5年先、10年先を見据えて、今から始めなければならない。まだスタートしたばかりですが、徐々に成果が出てくるでしょう。
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