指示待ち人材”を責める前にできること

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大澤 千恵

B!

指示待ち人材”を責める前にできること 


1.「うちには自律的な人材がいない」という嘆き、よく聞きます

「うちの社員は、自分で考えて動かない」「言われたことはやるが、それ以上はしない」──

大企業の教育・研修ご担当者やマネジメント層の方々とお話しする中で、こうした声を耳にすることは少なくありません。
現場を任せきれず、逐一指示を出さなければ業務が進まない。そんな状況に対して、「もう少し当事者意識や主体性があれば…」と、もどかしさを感じておられる方も多いのではないでしょうか。

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。
「自律的な人材がいない」のは、本当に個人の資質やモチベーションの問題なのでしょうか。
実際には、職場の風土や上司の関わり方など、組織側の環境が自律性を阻んでいるケースも少なくありません。


2.自律とは“勝手にやる”ことではない

まず確認しておきたいのは、「自律的に動く」とはどういう状態を指すのかという点です。

しばしば「自律」という言葉が、“放っておいても勝手に動く人”“自己完結する人”というニュアンスで使われることがあります。しかし、それは誤解です。
本来の自律とは、「目的を理解したうえで、自ら考え、選択し、行動すること」。
組織の方針や全体像を理解し、その中で自分の役割を捉え、最適な行動を自ら選び取るというプロセスです。言い換えれば、自律とは「判断力」と「主体的な行動」の掛け合わせであり、それを支える土壌が必要です。

つまり、自律性は、個人の意思や責任感に加え、周囲や組織との関係性の中で磨かれるものです。


3.自律を阻む“3つの組織的要因”

では、なぜ社員の自律性が育ちにくいのか。実は、無意識のうちに組織や上司が「自律を阻む構造」を作り出してしまっているケースが散見されます。とくに以下の3点は、自律性の育成において注意すべき要因です。

(1)上司が“正解”を与えすぎる
たとえば、部下がアイデアや提案を出しても、すぐに「それじゃダメだ」「こうした方がいい」と上司が正解を提示してしまう場面。
よくある光景ですが、これが繰り返されると、部下は「どうせ修正されるなら、最初から上司に聞いたほうが楽だ」と感じるようになります。
上司にとっては善意のアドバイスであっても、結果的には“考える機会”や“判断する余地”を奪ってしまっている。
その結果、自分の頭で考えることを避ける「指示待ち」姿勢が強化されてしまうのです。

(2)失敗に対する許容度が低い
また、ミスや失敗に対して、「なぜ確認しなかったのか」「どうして相談しなかったのか」と詰めるような反応があると、どうなるでしょうか。
そうした職場では、挑戦すること自体がリスクになり、社員は「言われた通りにやる」ことが最も安全だと学習します。
たとえ建設的な意図で指導していても、「失敗してはいけない」という空気が蔓延すれば、自律的な行動は生まれにくくなります。

(3)評価軸が「指示通り」に偏っている
「上司の期待を察知し、それに忠実に従うこと」が高く評価され、「自分で考えて工夫したこと」は評価されにくい。
こうした評価制度が暗黙に存在する職場では、当然ながら「指示待ち」が最適解になります。
評価制度と育成方針が矛盾していないか、今一度問い直す必要があります。


4.本人に火をつけるより、土壌を耕せ

自律型人材を育てたい──
それは多くの企業に共通する願いです。自律型人材を育てたい──
それは多くの企業に共通する願いです。

しかし、「どうすれば部下が自ら動くようになるか」「やる気を引き出すにはどうしたらいいか」といった問いに終始してしまうと、本質を見誤ることがあります。
自律とは、個人の内面だけで完結するものではありません。
やる気や主体性は、周囲の関わり方や職場の空気によって、大きく左右されるものです。
つまり、「自律的な人材」を育てるうえで重要なのは、本人に火をつけることよりも、“火が自然と育つ土壌”をつくること。
モチベーションを高める施策も大切ですが、それ以上に問うべきは、「自律が育つ環境を整えているか?」という視点です。

以下のような職場のあり方は、部下の自律性を後押しする土壌づくりにつながります:

• 意思決定の背景を丁寧に共有し、視座を引き上げる
• 提案に対してまず「ありがとう」を伝え、すぐに改善を加えない
• 失敗に対して「なぜそう判断したのか?」と対話を重ねる“自律的に動ける空気”があってこそ、自律は芽吹く。個人の力だけでなく、環境がその成長を支えるのです。


5.まとめ:人は変われる、環境と関わり方次第で

“指示待ち”という言葉は、つい個人の問題として語られがちです。
しかし、組織文化や上司の関わり方によって、自律性は大きく影響を受けます。
管理職に求められるのは、「ただ指示を減らすこと」ではありません。
部下が考え、動けるようになるための関わり方と、心理的安全性のある土壌づくりです。

人は変わります。
そして、その変化のきっかけは、本人の内側だけでなく、「周囲のまなざし」や「日々の関わり方」によって育まれるのです。

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