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実践者たち 星野佳路氏のケース

星野 佳路 氏(株式会社星野リゾート/代表取締役社長)のケース

1960 年、長野県軽井沢町生まれ。米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。
日本航空開発(現 JAL ホテルズ)を経て1991 年、(株)星野リゾート社長に就任。

本拠地に2005 年7月「星のや軽井沢」を開業する一方、様々なリゾート・温泉施設の再建に取り組んだ。
2012年現在は全国27 箇所のリゾート・温泉施設を運営するとともに、温泉旅館のブランド「界」を立ち上げている。

社長に就任したとき、私はこの同族会社を、
ビジョンを持って良い会社にしていきたいと思っていました。

新卒が全く入って来てくれない中、それを改善するために、私は二つのことを行いました。
一つが社名変更です。これまでの「株式会社星野温泉」から、「リゾート運営の達人」になるというビジョンを示すために、「星野リゾート」と改名しました。
もう一つが、ビジョン自体を明確にすることです。その当時は休みも少なく、給料も低く、施設も古く、言ってしまえばダメダメな会社でした。それでも、私が目指している将来像を明確に語ることにしたのです。今すぐ良い会社にはできない事情はあっても、このような将来像を持っています、ということ。これらを、私はスタッフに対して約束しました。

このビジョンに共感してくれる若いスタッフが少しずつ現れて、業界の人も含め、私の目指す経営の姿に納得してくれている人たちが集まり始めました。現在の星野リゾートの状態は、私たちにとってまだまだ道半ばです。私たちの設定した将来像は、実はもっともっと高いところにあります。星野リゾートに経営を任せていただければ、私たちの誰にも負けない運営の仕組みによって数値目標が達成できる……このような、本当の意味で競合相手に真似のできない仕組みを持つのが、私たちの将来像です。

星野リゾートは、そもそも他に大きな魅力がない会社でした。ですから、入ってきてくれる社員は、誰もが私たちのビジョンや経営スタイルに共感してくれる人だったのです。そのビジョンに共感し、スタイルを気に入ってくれていればいるほど、その理想と現実のギャップというものは大きく現れたと思います。そのギャップの中で悩む社員も多かったです。ビジョンに共感できない人が辞めるというより、共感の強い人から辞めていったということもありました。当経営者は、そういう人たちを最後まで引き留め、自分たちの理想と現実のギャップを常に埋めていくための最大限の努力をしていく必要があります。

ただ、どうしてもギャップは生まれてしまいます。その時に、絶対に理想の方を変えてはいけません。よく見るケースで、理想の方を現実に近づけるというものがあります。それは一番やってはいけないことだと思います。

私たちの育成制度は、基本的には本人のキャリア目標や習いたいこと、
成長していきたい気持ちをサポートするためのものです。

施設のリゾートの魅力を引き出すのと同じくらい、社員の魅力を引き出していくことは大切です。社員の育成に関しては、基本的な考え方として、「習いたいと思う時に習いたいものを習わせる」というものがあります。

本人に気持ちがないときは、身につくものも身につきません。 私たちの育成制度は、基本的には本人のキャリア目標や習いたいこと、成長していきたい気持ちをサポートするためのものです。「社員はこういう社員にしていきたい」と、こちらで勝手に決めない方が良いのです。自分たちで自分の将来をコントロールできるようにする。それがとても大事なことだと思っています。

また、キャリア像やキャリア目標は、時期とともに変化していくものです。家庭重視の時期もあれば、仕事重視のときも、または趣味重視のときもあります。色々な人たちの、色々な価値観を、いかに会社の仕事に合わせられるか。それがとても重要なポイントだと思います。価値観や考え方を押しつけるよりも、生かしていくことを考えた方が、会社からすると余計な教育コストがかかりません。 

私たちの頭の中には、入社してもらうことが大変だった時期のことが強く残っています。一旦入社したスタッフには長くいてほしい。その考えが根強くあります。長くいてもらうには、スタッフ一人一人の価値観の変化に合わせて私たちが支援できればいいと思って社員と接しています。

私たちは「究極のフラット」を目指しています。

「ビジョンを明確にして経営陣の姿勢を示す」他にも、社員のモチベーションを保つために重要なことがあります。

それはやはりコミュニケーションです。私たちは「究極のフラット」を目指しています。

これは、「議論のテーブルに着いたときには誰でも対等な関係で話せる会社を目指そう」ということです。役職などは関係なく、語られている中身だけを考えていける会社にする。言いたいことを言いたい人に言いたい時に言える、それが自由なコミュニケーションです。フラットなテーブルにみんなが座ったときに、議論している様子を客観的に見て、誰が上司で誰が部下で誰が社長かわからない組織、それを理想としています。

通常は、内容の善し悪しにかかわらず、役職の重みで発言の力が増します。たとえば私の発言は、他の人よりも重いわけです。ですが私は、それを積極的に無くしていきたいと考えています。私の言っていることが正しい確率は、実際五割ほどだと思います。ブレーンストーミング的に意見をあげているところに、変な重みをつけられてしまうと、こちらも言いにくくなってしまいます。その点、私たちが目指すフラットな組織では、変に重みをつけられてしまう私たち経営者側にとっても楽であるし、社員にとっても大事な環境だと思っています。

そのような環境ですから、若いスタッフにストレートに物を言われ、頭に来ることもあります。ですが、それで威厳を保ちたいから嫌だとか、面白くないと思ったりすることはありません。言われた意見について頭に来たら、こちらも思っていること、考えていることを言い返せばいいだけです。

それから、長く経営していて実感するのは、そもそも職責に基づいた権限で威厳を保つことの苦しさです。

正しいことを言い続けなければならないというのは、常に十割バッターであることを要求されるようなものです。ですが、実際は良くても三割バッターがいいところ。
いわゆるカリスマ経営者と呼ばれている人たちも、十割正しいということはないと思います。
フラットな場だからといって、私は社員に全てを押しつけて意志決定させるというわけではありません。自分が正しいと思ったことは言ってみたいし、間違っていると思ったことは違うのではないかと言います。それと同時に、「自分の言ったことに責任は持てない」ということも言っています。
社長として正しいことを言っているつもりはまったくなく、あくまでも個人として考えたことを言っているわけです。それは必ずしも正しいわけではないことを、社員に意思表示しています。

社員のみんなには、私の思いつきも含めて色々なことを考えてもらいたい。それから、最終的に組織として戦略の意志決定をする時には、リスクも共有してほしい。戦略がうまくいくには、正しい戦略を選んでいるというのは必要不可欠な要素ですが、その正しさは六割から七割にすぎません。あとは、実行する気合に占められていると思います。いくら九割正しい戦略でも、みんなが疑ってかかっていれば、または人から押しつけられたものであれば、実行はしきれません。自分たちの合意による戦略であることを共有してこそ、戦略は実現し、成果が上がります。

対談後記 ~組織文化が最大の競争優位性~

企業が持続的な繁栄を実現するには、競争優位性を維持する必要があります。多くの場合、それは二つあります。一つはテクニカルなものです。技術だったり・特許だったり・営業力だったりします。
もう一つは、「組織文化」です。組織文化が、そのテクニカルなものを生んだり、維持したりするのです。星野リゾートの組織文化は自由に意見を出し合い、ひとり一人が当事者意識をもって行動する活力ある文化です。その文化は次のような取組みによって生まれています。

●「ビジョンの共有」⇒ 社員のモチベーションを向上させています。
●「究極のフラット組織」ポジションパワーを一切使わないフラットで自由なコミュニケーション。⇒正解の確立を上げると同時に、社員の当事者意識やコミットメントを引き出しています
●「意志決定の共有」経営会議にさえ一般社員が入れるほど、意志決定のプロセスを公開。責任者を選ぶ時の立候補制。⇒社員の当事者意識を引出し、ベストで無いことを批判するのではなく、ベターを追求していく姿勢を生んでいます
●「社員をコントロールせず、自分で選択させる」キャリアや教育についても、会社の考えを押し付けない。自分の将来を自分でコントロールできるようにして、会社はそのサポートをする。⇒ 当事者意識とコミットメントを生んでいます

星野リゾートの取組みはまさに、組織作りの教科書だと言えますね。

書籍「組織づくりの教科書」真田茂人 監修/起業家大学 著(起業家大学出版)より抜粋