ウェルビーイングな組織のメリットと、ウェルビーイングの6つの側面

  • 経営・組織
  • モチベーション・自律
  • メンタルヘルス
ウェルビーイングな組織のメリットと、ウェルビーイングの6つの側面

私たちが推進する「ウェルビーイング」とは、ただ病気ではないというだけではなく、心理的にも、身体的にも、社会的にも健やかな状態を指します。心理学の歴史においては、長い間、心の病気を持っていて苦しんでいる状態(−3)から問題がない状態(0)に戻すことばかりにエネルギーが注がれていました。しかし、より幸せに生きる(0から+3へ)ことについても研究すべきとして、1998年に提唱されたのが「ポジティブ心理学」です。幸せな人の共通点についての知見が重なるにつれ、幸せには、実は心の健康だけでなく、身体的、社会的な健康が不可欠だということが明らかになってきました。そこで、私たちの団体では、1946年にWHOで提唱されていたウェルビーイングという概念に再注目し、心と体と社会的な健やかさをバランスよく高めることに重きをおいて活動をしています。

企業が大切にすることも時代によって変化してきました。まずは「顧客満足度」が重視されたことから、社員に過酷な労働環境を強いる企業の問題が露呈し、やがて「社員満足度」の重要性が認識されるようになりました。給与面、休日や福利厚生などの労働条件を整えることで、一時期は就活生が企業を見極める際の基準にもなっていました。しかしこれはまだ、−3(ひどい状態)から0(問題のない状態)を目指す取り組みであり、社員の+3の状態が考慮されているとは言えない状況です。

その後、世界中に拠点を持ち、世界調査を行っているギャラップ社の牽引で、社員がより楽しくやりがいを持って仕事をするという意味を指す「ワークエンゲージメント」を高めることに注目が集まりました。0から+3の状態です。ワークエンゲージメントには、熱意、活力、没頭という3つの要素があります。ある研究では、社員のワークエンゲージメントの高さを4つに分けると、上位4分の一は、下位4分の一の会社に比べ、21%利益が高く、17%生産性が高く、10%顧客評価が高く、41%欠勤率が少なく、70%事故が少なかったと報告されています。

そして現在は、その先を行く社員の「幸せやウェルビーイング」を高めようとする動きが広まりつつあります。2010年度に発表された、ギャロップ社の「The Economy of Wellbeing」では、社員のウェルビーイングを高めるメリットが報告されています。この研究では5,270名の正社員を対象に、ギャロップウェルビーイングファインダーという調査票を用い、0-100点を3つに分類しました。ウェルビーイングの低い社員(0-39点)、中程度の社員(40-69点)、高い社員(70-100点)です。そして、翌年、そのウェルビーイングの点数と、健康問題と離職問題にかかった経費の関係を調べました。ある年のウェルビーイングが高い社員は、翌年、健康問題が少なく離職することも少なかったという結果になり、かかった一人当たりの経費は次の通りでした。

健康問題関係の経費に関しては、ウェルビーイングが高い社員にかかる費用は、中程度の社員より41%少なく、これは一人当たり−2,993ドルで、1万人の会社では3千万ドルの違いになります。興味深いのは、ウェルビーイングの高い60歳の社員は、ウェルビーイングの低い30歳の社員よりも健康問題の経費が少ないということです。離職関係の費用も傾向は同じで、ウェルビーイングが高い社員にかかる費用は、中程度の社員より35%低く(-987ドル)、低い社員よりは一人につき-1,948ドルで、これも1万人の会社では約2千万ドルの差になります。

もちろん、ウェルビーイングが高い社員は健康で、離職率が低いだけでなく、生産性、セールス、クリエイティビティも高いことがわかっています。数多くの研究報告がありますが、例えば、リュボミアスキーらの研究では、生産性は30%高く、セールスは47%高く、クリエイティビティは200%高かったということです。

また、ギャロップ社のトム・ラス氏は、さらに社会的ウェルビーイングについて、キャリア、対人、経済的、コミュニティという4領域のウェルビーイングに分けています。
キャリアウェルビーイングは、前述のワークエンゲージメントを指しますが、キャリアウェルビーイングが高い場合、他の全てのウェルビーイングが高い確率が一番高く、人生において最も大切なものの一つであることが示唆されます。しかし、ギャラップ社の調査では、エンゲージしている社員の割合は、アメリカでは30%、全世界では11%、日本では実に6%と報告されており、以前として低い状態です。ワークエンゲージメントを高める方法は多く研究されていて、例えば、強みにフォーカスすること、仕事に意味を感じられること、フロー状態に入りやすくすること、職場で良いつながりがあること(心理的安全性も含む)が挙げられます。エンゲージメントが高ければ生産性も高くなるため、企業にとっては一番興味がある領域だと感じます。

ただ、キャリアウェルビーイングだけを追求すれば、時にワーカホーリックなどの問題も起こりかねず、家族との時間や体の健康など、他のウェルビーイングの側面が損なわれる可能性もあります。実際、キャリアウェルビーイングが高い社員の半分以上は、他の側面で苦しんでいます。エンゲージメントだけが高い社員と比べ、エンゲージメントとウェルビーイングの両方が高い社員は、病欠が70%低く、転職率が18%低く、人生満足度は42%高く、自己・会社による評価が26%高く、環境への適応が49%高いと報告されています。会社はどちらも大切にしていく必要があるでしょう。

ウェルビーイングの真髄は、その「バランス」にあると考えます。ギャロップ社は、同研究でウェルビーイングの高い側面が多ければ多いほど良いという、累積メリットがあることを発表しています。ある年の社員のウェルビーイングの高い側面の数と、翌年の経費の関係は次のようになっています。

対人関係のウェルビーイングは、社員の社内と社外のつながりを育めるように工夫することができます。対人関係は特に大切で、2千万人に聞いた調査では、会社に良い友人がいると答えた社員は、そうでない社員に比べ、エンゲージメントが7倍高かったと報告されています。また、職場で良いつながりがあると感じている社員の中では、エンゲージメントが高い社員が49%いたのに対し、良いつながりがないと感じている社員の中ではたった10%でした。

経済的なウェルビーイングとは、社員の収入とは別のもので、経済的な安定や安心感を指します。リタイヤメントプランの教育や、同じお金でも物質より経験に、自分より人のために使うと幸福感が増しやすいということを伝えることも効果があるでしょう。

コミュニティウェルビーイングは、社員や組織のいるコミュニティの幸福に貢献することを指します。ボランティア的な側面が多いことから軽視されやすい領域ですが、コミュニティウェルビーイングが高いケースほど全体のウェルビーイングが最も高くなり、これはGood life と Great lifeを分けるものだと言われています。社員または会社が、コミュニティのために何ができるか考えて実践したり、コミュニティ貢献の時間を与えるなどの工夫が重要な点であると考えられます。

2018年7月にDelivering Happiness 社のジェン・リム氏が日本に訪れ、その講演を聞く機会がありました。この会社もGoogle社と同様、従業員の幸せに着目しその向上を担うチーフハッピネスオフィサー(CHO)という役職を導入しています。CHOの仕事は、ビジネスで成功する方法ではなく、直接的に幸せになれる方法を伝えることだといいます。「社員の幸せ=顧客の幸せ=会社の成長&意味のある人生」という方程式が印象的でした。
ウェルビーイング心理教育アカデミーでは、このような良い循環を生み出すウェルビーイング経営の支援をおこなっています。