ストレスマインドセットとストレスマネジメント

  1. HOME
  2. お役立ち情報
  3. お役立ち情報/専門家コラム
  4. ストレスマインドセットとストレスマネジメント
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ストレスマインドセットとストレスマネジメント

ストレスマインドセットとストレスマネジメント

ストレスの多い社会を生きていくためには、ストレスマネジメントのスキルが必要になります。
一般的にストレスマネジメントは、二つの要素から構成されています。一つは、自分にとってストレスとなるものに気づき理解すること、もう一つは、それらストレスに対する適切かつ具体的な対処法を身につけることです。
ストレスマネジメントができるようになると、不要なストレスを回避したり、過剰なストレスを減少させたりして、心身の健康を維持しやすくなります。

1.二つの異なるストレスマインドセット

近年の研究においては、ストレスに関するもう一つの概念が注目されるようになってきています。それは、ストレスマインドセットと呼ばれるものです。
ストレスマインドセットは、ストレスに対する見方や心構えのことであり、大きく分けて二つの視点があります。

一つは、ストレスを害と見なすネガティブな視点からのマインドセットです。この視点からストレスマネジメントを行う場合には、いかに自分に余分な負荷を掛けず、程よい状態を保つのかが重要な課題となります。

もう一つは、ストレスは役立つものであるというポジティブな視点からのマインドセットです。この視点からストレスマネジメントを行う場合には、ストレスによってもたらされるメリットに焦点を合わせ、自分の能力を最大限に発揮することが重要な課題となります。



2.ポジティブなストレスマインドセットがもたらす効果

スタンフォード大学のアリア・クラムらの研究では、ストレスを害と見なすネガティブな視点からのマインドセットとストレスは役立つものであるというポジティブな視点からのマインドセットでは、ストレス状態になった時のDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)と呼ばれるホルモンの分泌に違いがあることが明らかになりました。



通常、ストレス状態になると交感神経の働きによって副腎髄質からアドレナリンというホルモンが分泌され、心拍数が高まり血管が縮小します。こうすることによって筋肉などに勢い良く血液を送ることができます。
しかし、血液を送るポンプの役割を持っている心臓と血管に負担をかけることになり、長期間にわたるとダメージを与えることになります。しかし、DHEAが分泌されると、心拍数が高まり身体を巡る血液の循環スピードは速くなりますが、血管は収縮しません。そのため、血液はスムーズに流れることができ、筋肉に酸素を運んで老廃物を取り去りますが、心臓や血管への負担が少なくてすみ、持てる能力を最大限に引き出すことが可能になります。

ポジティブなストレスマインドセットは、ストレス状態の時に高いパフォーマンスを発揮し、心身ともに更なる成長をもたらす重要な働きをします。


3.ストレスから回復する力

ストレスに関しては、ストレスとの向き合い方だけでなく、回復にも意識を向けることが肝要です。
ストレスから回復する力はレジリエンスと呼ばれ、医療・産業・心理・福祉など、様々な領域で注目されています。

レジリエンスは、「再起力」や「回復力」などと訳され、ストレス状態から元の状態に戻ることを意味するものです。
専門的には、「ストレスフルな状況でも精神的健康を維持できる,あるいは回復へと導く心理特性」石毛(2003)や「困難で脅威な状況において,うまく適応する過程・能力・結果」(Masten,A.S,et al.1990)というような定義がされています。

レジリエンスは、ストレスと同様に物理学の分野で用いられてきました。
ストレスは、外部から力が加わった時にその物体の内部に生じる力の大きさを表す物理量のことです。
レジリエンスは、そうしたストレス状態から元の状態に戻ろうとする弾力を表すものです。
例えば、ゴムボールを押しつぶした時に内部の圧力が高まりストレス状態となり、そこから元の状態に戻るのがレジリエンスと言えます。

人間も同じようにも同じような能力が備わっており、ストレス状態に陥っても元の状態に戻ることができます。
人の身体は、血圧や脈拍や体温などホメオスタシス(恒常性保持機能)によって、外部環境の変化に対して一定の状態を保つことができます。これは身体が持つレジリエンスの能力と言えます。心理的にも順応とか適応と呼ばれる現象がみられます。これにより、辛いことや悲しいことがあっても再び元気を取り戻すことができるようにデザインされています。

コロンビア大学のジョージ・ボナーノの研究によれば、PTSDに陥りそうな出来事や大きな試練や逆境に遭ってもほとんどの人が元の状態へと回復することが報告されています。誰もがレジリエンスの特性を持っています。このことを知っているか知らないかで、ストレスに対する向き合い方が大きく変わるのではないでしょうか。


4.ストレスに耐えるハーディネス

ストレスを乗り越えるために重要な役割を果たすもう一つ特性は、ハーディネスと呼ばれています。
ハーディネスとは、「高いストレス下にあっても健康を保っている人々が持つ性格特性」(Kobasa,1979)のことで、具体的には、次の3つの要素で構成されると考えられています。

コミットメント(Commitment) 自分の存在や行為に価値があると感じ、人生の様々な状況に自分を充分関与させる傾向
コントロール(Control) 出来事の推移に対し、自分がある範囲内で影響を及ぼすことができると信じ行動する傾向
チャレンジ(Challenge) 人生における変化を安全・安心に対する脅威ではなく、成長するための刺激とみなす傾向



ハーディネスの概念は、産業分野の研究から生み出されましたが、他の領域でも数々の研究がなされています。
例えば、テヘラン大学で行われた大学の運動選手を対象にした研究では、ハーディネスのスコアが高い選手ほど幸福感が高く、スポーツで高い成果を挙げていることが明らかになっています。

ハーディネスを構成するコミットメント、コントロール、チャレンジという3つの要素は、ストレスに対する認知や対処行動に関するものです。したがって、遺伝的な影響だけでなく、訓練することによって向上させることが可能と考えられます。


5.ストレスを力に変えて、上手につき合う

ポジティブなストレスマインドセットを持つことによって、ストレス状態にあっても最高の力を発揮できるようになります。レジリエンスのスキルを学び、身につけることで、ストレス状態からの心身の回復力を高めることができます。ハーディネスのスキルを習得し、向上させることで困難や逆境に強くなり、ストレスを更なる成長の機会とすることが可能になります。

ストレスは、つき合い方次第でマイナスにもなれば、プラスにもなります。大切なことは、ストレスに対する正しい知識と、効果的なストレスの対処法を身につけることと言えるでしょう。

ストレスマインドセットにご興味のある方は、2020年2月23日(日)・24日に、レアリゼアカデミーで「Wellbeing stress mindset~ストレスマネジメントとレジリエンスの支援法~」というワークショッフを開催いたします。この講座では、ストレスマネジメントの理論と具体的方法、レジリエンスの高め方、逆境を成長に変えるポストトラウマティックグロースについて学ぶことができます。

引用文献
  • Alia J. Crum, Modupe Akinola, Ashley Martin and Sean Fath(2017).「The role of stress mindset in shaping cognitive,emotional and physiological responses to challenging and threatening stress」Informa UK Limited, trading as Taylor & Francis Group
  • 石毛みどり(2003).「中学生におけるレジリエンスと無気力感の関係」お茶の水女子大学大学院人間文化研究科 人間文化論6,243-252.
  • Masten,A.S,.Best,K.&Garmezy,N.(1990).『Resilience and development:Contribution from the study of children who overcome adversity』Development and Psychopathology,2,425-444.
  • ジョージ・A・ボナーノ『リジリエンス-喪失と悲嘆についての新たな視点』高橋祥友 監訳、金剛出版
  • Kobasa, S.C.(1979).『Stressful life events, personality, and health:An inquiry into hardiness』Journal of Personality and Social Psychology, 37, 1-11.
  • Sepideh Ramzi,Mohammad Ali Besharat.(2010).「The impact of hardiness on sport achievement and mental health」Department of Psychology,University of Tehran.
  • 中西友希子,玉瀬耕治.(2014)『ストレス状況下におけるレジリエンスとハーディネスの役割』帝塚山大学心理学部紀要,第3号,pp.31-41


渡邊 義

ウェルビーイング心理教育アカデミー共同代表理事
SmartBeing合同会社代表、神栄カウンセリングセンター所長

公認心理師、臨床発達心理士、経営管理修士。約30年に渡り心理臨床に従事し、企業のメンタルヘルス支援業務及び自律的組織づくりのコンサルティングを行う。専門はウェルビーイング心理教育と自律分散協調型の生物的組織デザイン。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加