人材こそ競争力の源泉〜「日本で一番『人』が育つ会社」を目指す東京海上日動火災保険の人事改革

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人材こそ競争力の源泉〜「日本で一番『人』が育つ会社」を目指す東京海上日動火災保険の人事改革

~人材こそ競争力の源泉~
「日本で一番『人』が育つ会社」を目指す東京海上日動火災保険の人事改革


ホームページ:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp

お客様情報

本田 淳 氏

東京海上日動火災保険株式会社
人事企画部 次長 兼 人材開発室 課長 能力開発チームリーダー

※部署・役職はインタビュー当時のものです
吉村 由宇 氏

東京海上日動火災保険株式会社
人事企画部 人材開発室 能力開発チーム 課長代理

※部署・役職はインタビュー当時のものです

2.経営環境の変化に対応した人事改革が不可欠に

真田:日本を代表するエクセレントカンパニーである御社が、新たな人材育成手法の導入をはじめ、さまざまな人事制度の見直しに着手されています。その背景やお考えをお聞かせください。

吉村:近年、日本企業の経営環境は急激に変化しています。損害保険業界にとっては、テクノロジーの進展や人口動態の変化が我々のビジネスに大きな影響を及ぼすことが予想されます。他社との競争も激化していく中で、グローバル展開をはじめ新たなチャレンジをスピード感を持って進めていかなくてはなりません。

当社が競争優位に立つ上でカギとなるのは、「人材」の強みをますます磨き上げることだと私たちは考えています。保険という目に見えない商品を扱っているだけに、人材の質やモチベーションの高さ、それを支える人事の枠組みが、競争力をより大きく左右すると考えられるからです。



本田:
もう少し具体的にお話しましょう。

例えば当社がグローバル展開を強化していくとなると、今まで以上に専門性の高い人材が求められていく可能性があります。当社はゼネラリスト的人材が多いことが強みになっていましたが、今後はそれを見直していく必要が出てくるかもしれません。いわゆる高度専門人材のようなスペシャリストを国籍問わず外部から登用するケースもあるでしょう。

人材の多様性が高まれば、人事の果たす役割もますます重要になります。繰り返しになりますが、保険という目に見えない商品を扱うがゆえに経営理念やビジョンをしっかりと浸透させて、会社としての求心力を強めていくことが非常に大切になるはずです。

人事とは、会社の戦略そのものです。会社が目指すビジョンや事業展開に相応しい人材像を見極め、それに対応して制度・採用・配置・育成などの人事のあり方も変えていかなければなりません。経営環境が変化する中、人事改革に取り組むのは当然といえます。



真田:確か2014年に、当時の岩崎専務(現副社長)から呼ばれて、「「日本で一番『人』が育つ会社」と宣言してもいいと思うか」と意見を求められました。この時は正直驚きましたが、2015年の中期経営計画の中では、それを目指すことを宣言されました。

吉村:もともと当社には「人が育つこと、人を育てることは素晴らしい」という社風が昔から脈々と続いており、けっして人が育っていないわけではありませんでした。ただ、今後の環境変化を見据えると、まだまだできることがあるのではないかという思いがあるのも事実でした。そこで、改めて明確な人材育成方針を掲げて、時代の変化に対応した人事のあり方や人材のマネジメント、育成のあり方を構築していこうと考えたのです。

真田:なるほど。会社としての本気度を改めて示すための決意表明だったんですね。

吉村:実際、毎年入社してくる社員の価値観も明らかに多様化しています。しかも今はビジネスの正解が見えない時代。自分が過去に育てられたやり方をそのまま部下に当てはめるやり方だけでは、適切な育成にはつながりません。実際、自分のやり方が通じず、苦しんでいるという声も聞こえてきていました。

本田:マネージャーの負担が重くなっていることも影響しています。組織の統合や再編を続けてきた結果、1つの課に50人もの部下がいるなど、マネジメント範囲が大幅に広がってしまった。人材育成の中心はOJTであるべきですが、やることも増え、メンバーの働き方も多様化し、マネジメントの難易度が向上しているのも事実です。

 

3.自分が「なりたい姿」を考え、目指せる環境づくりが重要に

真田:そこで人事企画部として、人事に関する改革や施策に実に幅広く取り組んでこられたのですね。改革や施策について具体的に教えていただけますか。

本田:まず当社は2016年4月に人事制度全体を大きく見直しました。それに伴って、育成や研修の考え方も変えています。

当社の人材育成においては「育つ側」の「どうなりたいか」という発意が全ての起点だと考えています。研修は通常、年次や役職などに併せて実施しますが、その際、自分が1つ上のステージに上がったときのことを考えさせる内容にしました。彼・彼女にはどうなってほしいか、自分にはどんな未来が待っているのかを伝えることで、「なりたい姿」を考える契機にしてほしかったからです。

吉村:この3年間の中期経営計画では一対一での人材育成にも力を入れてきました。当社社員は皆、人材育成に熱心であると思います。問題はその育成方法が自分の経験のみに基づいた我流なものであったり、「育てる側」の熱い思いが必ずしも「育つ側」の心に火を点けていないことがある、ということでした。“育て方の引き出し”が少ないと、多様な「育つ側」にうまく対応できず苦しくなってしまいます。育て方の引き出しを増やしていくことが必要です。

本田:そこで私たちとしては、いかに「育つ側」の「発意」を引き出すかについて、「育てる側」が考える機会や場を提供するように努めています。

人材育成で大切なのは、メンバーに対し「期待して、鍛えて、活躍する機会を提供すること」です。「鍛える」ばかりに注力してもなかなか成果は出ません。メンバーに期待して仕事を任せたり、能力が最も発揮できるような場を与えてあげることが大切です。私たちはこの3要素を「3つのK」と呼んでいます。これは東京海上グループのCEOである永野も色々な場面で発言しており、社内にも浸透しています。

 

4.人材育成に関する貴重な知見を共有する「育てる本」

真田:御社のユニークな人材育成ツールである「育てる本」についてもお話し頂けますか。

吉村:作成の背景からお話させて頂くと、もともと当社内には“育て上手な人”が多数いて、実践的なノウハウを持っていますが、それが暗黙知にとどまっており、必ずしも共有されていませんでした。これは非常にもったいないことです。そこで、こうした暗黙知を形式知化することで、ほかの社員にもぜひ活用してほしいと考えてつくったのが「育てる本」です。「育てる側」が直面する日常のさまざまな場面ごとのtips集となっています。「本」と言っても紙の本ではなくパワーポイントのデータです。各ページの左半分にはtipsが記載されており、右半分はほぼブランクになっています。ここには日常の気付きをそこに書き込むことを通じて、「育てる本」自体を育ててほしい、という思いが込められています。

本田:もう一つ考えていたのは、マネージャー同士の対話を創出するきっかけにしてほしいということ。昔は仕事帰りにお酒を飲みながら、部下育成の悩みを互いに語り合う、といったケースがよくありましたが、最近のマネージャーはとにかく忙しく、対話の機会が減っています。「育てる本」がマネージャー間のちょっとした会話のきっかけになってくれたらいいなと期待しています。

真田:私の本の内容や弊社の研修内容も反映して頂いて光栄です。具体的にはどう活用しているのでしょう。

吉村:総ページ数は140ページ以上もあり、全部を順に読んでほしいというより、育成で悩んだときには「育てる本」のことを思い出して、参考になりそうな箇所を読み返してほしいと考えています。現場のマネージャーの声をインタビューしてまとめてあるので、内容は非常に実用的です。

本田:年度初の部下との目標設定の面談ではどんな話をするか、効果的に日常のフィードバックを行うにはどうするかなど、その場面ごとに相応しいtipsを紹介しています。どの企業でも、人事は研修や育成のツールをたくさん作成していると思いますが、作って終わりにならないよう、できるだけ日常の場面で活用してもらうよう意識しています。



5.社内報の「人材育成特集」で、優れた育成事例を共有

真田:さらに御社では、社内報で人材育成特集を組まれていますね。他社ではあまり見たことがないのですが、どんな背景があったのですか。

吉村:先ほどもお話したように、人材育成に関する社内の貴重な暗黙知を、形式知化したいという思いがありました。育成の場やツールなどは人事企画部主導で提供することが可能ですが、各部署がどんなことに取り組んでいるかいう事例を共有する有効な手段はありませんでした。そこで考えたのが社内報の活用でした。他の部門の活動は刺激になると考えています。

真田:様々な人材育成の取り組みをする中で何か変化はありましたか?

吉村:「現場でこんなことで困っている。何かいいアイディアはないだろうか」と、人事企画部に寄せられる相談の件数が増えてきたのです。予想外の反響で、これは驚きました。

本田:さらに営業部門から、「お客様に当社の人事の施策を紹介したいので、ぜひ一緒に来てほしい」という依頼まであります。おかげで私たち人事企画部のメンバーがお客様のところに行くケースも増えました。

真田:それは興味深い変化ですね。

本田:当社の人事の取り組みも、お客様の課題を解決するソリューションの一つだと捉えはじめた社員がいるということだと思います。これは大きな変化です。私たちが目指していたのは、いわゆる「研修屋」から脱却して、社内において「人材育成のことで何かあったら真っ先に相談する相手」になることでした。それが少しずつ実現しつつあり、手応えを感じているところです。


6.延べ1,800人以上が受講。「リードマネジメント」が社員の共通言語に


真田:
2011年に当時の小西部長から、環境変化に対応するため、「自ら考え、発信、行動する」人材の集団にならなければいけないと、ご相談を受けました。議論した結果、それを実現するには、管理職のマネジメントを変える必要があるという結論になりました。管理職がこれからの時代に対応する新しいマネジメントの思想と手法「リードマネジメント」をご提供してきましたが、どうお感じになられましたか?

本田:私自身、研修を受講していて、強く記憶に残っています。まず自分がマネージャーのあり方を誤解していたことに気づかされました。マネージャーは必ず正解を知っていて、ミスすることなく、何でもできなければならないと。現在のような先行きが見通せない時代に組織を導いていくには、その考え方ではうまくいきません。部下の自律性を高め発意を引き出し、彼・彼女の多様な才能を発揮させるというリードマネジメントの発想が欠かせません。これからの時代、ますます求められるはずです。

自分が「なりたい姿」を追求する姿勢が大切であることも学びました。当時も真田さんがおっしゃっていましたが、その仕事を通じて自分が「なりたい姿」に近づいていると実感できていたら、社員の誰もがモチベーション高く気持ちよく働けるはずです。そういう環境づくりを支える人事部門でありたいと考えています。自分にとって本当に印象深い研修の一つでした。

吉村:当社でリードマネジメントプログラムを受講した社員数は、延べ1,800人にのぼります。リードマネジメントの考え方はいわば社内の共通言語になっており、上司と部下との日常的な対話の精度も上がっていると感じます。部下と「なりたい姿」について語り合う機会を積極的につくっているマネージャーが増えています。

さまざまなコンサルティング会社や研修会社とお付き合いさせていただきましたが、なかでもレアリゼさんは我々の思いに真剣に応えてくれていることを強く感じます。私たちは常々、人事施策全体がストーリー性を持って有機的につながっていてほしいと考えています。そうした全体像を考えた上で、我々をサポートしてくださっていることも本当に感謝しています。

本田:我々のことを本気で理解しようとしてくださっているのをいつも感じますね。それが現在のような信頼関係につながっているのだと思います。

真田:ありがとうございます。私たちも、お二人のように情熱を持ち、「人事から会社を変えていこう」と真剣に取り組まれている御社とお仕事させていただいて大変光栄です。

本日はありがとうございました。

(対談実施日 201831日)


※編集部注
リードマネジメントとは:
メンバーの主体性と創造性を引き出し、組織・チームの成果を高めるマネジメントの考え方。
現在、他社様では「エンパワーマネジメント」の名称で提供しています。サーバントリーダーシップの思想のマネジメント手法として位置づけています。

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