パラダイムの柔軟性

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パラダイムの柔軟性

パラダイムの柔軟性


1.近い将来の働き方

2016年8月、厚生労働省は「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会の報告書をまとめ発表しました。報告書の中では、AI(人工知能)などを中心とした技術革新によって変化する働き方の予測が記されています。
その要点を述べると、個人の働き方としては、働く人々が働く場所と時間を自由に選べるようになり、自立した個人が自律的に多様なスタイルで働くことが求められるようになることが表されています。
一方、組織については、そうした個人の働き方に伴い、柔軟かつ対応力のある組織体になることが求められ、企業組織はミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となって組織の内と外との垣根は曖昧になると考えられています。
ここには、いわゆる「管理統制型の機械的な構造」から、「自立分散協調型の生物的な構造」へとシフトすることが示されており、すでにそうした変化は始まっています。

たとえば、リトアニアやエストニアなどが国家レベルで取り組んでいる国家ブロックチェーンプロジェクトの動きは、まさにこの流れによるものと言えます。
また、組織レベルでは、グローバル企業のグーグルやアマゾンなどのIT企業が多様で柔軟な働き方を実現する工夫を行なっています。
中小企業ではソフトウェア開発を行っているソニックガーデンが、納品のない受注開発、オフィスなしの全員リモートワークなどで成果を上げ、注目されています。
ITを活用して不動産業界の課題を解決するダイヤモンドメディアは、フラットな組織構造、徹底した情報公開、社長・役員・給与をみんなで話し合って決める、働き方を各自が選ぶ…など試行錯誤しながらユニークな取り組みを行っており、これを自然経営と呼んでいます。

(ソニックガーデンにご興味のある方は、『管理ゼロで成果はあがる』/技術評論社、ダイヤモンドメディアにご興味のある方は、『管理なしで組織を育てる』/大和書房を一読されることをお勧めします)


2.パラダイムの変換

世の中の流れは、工業化社会の機械的な動きから情報ネットワーク社会の生物的な動きへと移り変わろうとしています。これは、社会構造の変化だけでなく、パラダイムの変化も伴っています。

パラダイムとは、一般的に「モノゴトを捉える枠組み」というような用いられ方をしている言葉です。世界大百科事典第2版の解説によれば、語源はギリシャ語のparadeigmaという言葉で、「範例・手本」を意味するものとされています。

パラダイムが現在用いられているような使われ方をするようになったのは、1962年にトーマス・クーンが記した『科学革命の構造』からのようで、そこには次のような定義が記されています。「広く人に受け入れられている業績で、一定の期間、科学者に、自然に対する問い方と答え方のモデルを与えるもの」。

工業化社会のパラダイムを一言で表すならば、「規格化」と言うことができるでしょう。そこでは、多様な見方・考え方は受け入れられず、定められたルールに沿って行動することが求められました。こうした社会のパラダイムは、組織のパラダイムにも影響を与え、安定性を重視し、柔軟性のない規則的な動きを生み出すことになりました。これは、工業化社会に適応した機械的な組織の特徴と言えます。

インターネットが登場し、社会インフラが変わったことによって個人の発信力が高まり、ネット上に多様な見方・考え方が飛び交うようになりました。その結果、工業化社会のパラダイムから情報ネットワーク社会のパラダイムへとシフトが始まりました。

3.「ゆらぎ」という現象

さて、情報ネットワーク社会のパラダイムとは、どのようなものなのでしょう?私は、「ゆらぎ」が情報ネットワーク社会のパラダイムを表すキーワードだと考えています。

情報ネットワーク社会は、多くの「ゆらぎ」が起こる社会です。「ゆらぎ」の幅は、特定の人たちに影響をもたらす小さなものから、社会を変える大きなものまで多種様々なものがあります。こうした「ゆらぎ」は、そのネットワークに繋がっている人々の動きを反映し、まるで生物のようです。
そうした「ゆらぎ」を受け止め、安定と不安定を繰り返しながら動き、形を変え、適応していくのが情報ネットワーク社会の生物的な組織の特徴と言えるでしょう。

4.情報ネットワーク時代を生き抜くために

情報ネットワーク社会のパラダイムは、少しずつ組織のパラダイムに影響を及ぼし、画一的なモノの捉え方から多様な見方や考え方を受け入れようとする動きへと変化し始めています。これは、フラクタル(相似形)な現象であり、近年ホラクラシーやラティス型組織、ティール組織などといった自律分散型組織に注目が集まっているからも分かることです。

情報ネットワーク化が進むこれからの時代を生きていくためには、個人としては、「どのように働くのか」ということだけに目を奪われるのでなく、ネットワーク社会の一員である自分と真摯に向き合い「自分はどう考え、どうありたいのか」を考え続けることが重要です。
また組織としては、変化する状況から素早く学び、組織の存在価値を問い続け、有機的に動ける形態を模索していくことが求められるでしょう。

そして、それらを実行するための最大の課題があるとすれば、それは前例や慣習などに囚われた固定的なパラダイムから、多様性を認め、現実から学び、変化を生み出すことができる柔軟なパラダイムへとシフトすることなのではないでしょうか。


渡邊 義

ウェルビーイング心理教育アカデミー共同代表理事
SmartBeing合同会社代表、神栄カウンセリングセンター所長

公認心理師、臨床発達心理士、経営管理修士。約30年に渡り心理臨床に従事し、企業のメンタルヘルス支援業務及び自律的組織づくりのコンサルティングを行う。専門はウェルビーイング心理教育と自律分散協調型の生物的組織デザイン。
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