ハーバード・ケネディスクールで学んだコミュニティオーガナイジングで日本の社会問題を解決する。

ハーバード・ケネディスクールで学んだコミュニティオーガナイジングで日本の社会問題を解決する。

対談者

  • 特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン 共同創設者・鎌田華乃子 氏

    特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン 共同創設者・鎌田華乃子 氏

    プロフィール
    慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所 客員研究員
    ロータリー財団国際親善奨学生
    Harvard Kennedy School, The Roy & Lila Ash Fellowship in Democracy

    横浜生まれ。子どもの頃から社会・環境問題に関心があったが、11年間の会社員生活の中で人々の生活を良くするためには市民社会が重要であることを痛感しハーバード大学ケネディスクールに留学しMaster in Public Administration(行政学修士)のプログラムを修了。卒業後ニューヨークにあるコミュニティオーガナイジング(CO)を実践する地域組織にて市民参加の様々な形を現場で学んだ後、2013年9月に帰国。特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ)を2014年1月に仲間達と立ち上げ、ワークショップやコーチングを通じて、COの実践を広める活動を全国で行っている。

■コミュニティオーガナイジングとは

真田:今日はコミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(略称COJ)の鎌田さんにお越し頂きました。実はレアリゼはCOJ設立時に色々と応援してましたが、ますます発展されていて嬉しいです。

鎌田:ありがとうございます。その節は大変お世話になりました。

真田:まず「コミュニティオーガナイジング」とは何かをご説明いただけますか。

鎌田:たとえば、思いを持った人が社会課題を発見しても、一人では解決できないことがあります。そこで、仲間を集め、仲間の輪を広げ、その仲間とともにアクションをして、大きな課題を解決する。このような変化を起こしていくのが「コミュニティオーガナイジング」です。

真田:「コミュニティオーガナイジング」の考え方や手法は、どうやって生まれたのでしょうか。

 

鎌田:実は「コミュニティオーガナイジング」は、日本でもずいぶん前からあったんですよ。例えば、「一揆」です。

 

真田:へー、そうなんですか。「一揆」が「コミュニティオーガナイジング」の一つだなんて驚きです。

 

鎌田:「一揆」と言うと、農民が斧や鎌を持って代官屋敷を襲うといった暴力的なイメージがあると思います。しかし、「一揆」の本来の意味は「皆で立ち上がり行動すること」なんです。話し合いに行く、農作業をボイコットする、皆で逃げる、バリケードを作ること、なども「一揆」と言えるんです。ところが、江戸時代に入り「一揆」が禁止されてから逆に暴力的な「一揆」が目立つようになってしまったのです。

真田:そうなんですね。

鎌田:たとえば、年貢が大変で生活できないような人たちが、これは皆で税金を減らしてもらわないといけないと、皆で集まって話し合いをする。日本にはもともとそういった「寄り合い」がありました。そして皆で集まって領主に訴える。そういう意味では、日本でも、もともとコミュニティオーガナイジングがあったと言えるんです。

真田:そういった素朴な活動がコミュニティオーガニンジングの始まりなんですね。

鎌田:そうですね。近代に入って、そういった人々と行動を共に起こすことを意図的にしたというのが「コミュニティオーガナイジング」です。1900年代、戦前のアメリカで体系化されました。

真田:誰が体系化したのですか?

鎌田:コミュニティオーガナイジングの源流を作ったといわれる人がソウル・アリンスキーです。彼はシカゴでオーガナイザーをやっていた人です。ユダヤ人です。ユダヤ人ですが黒人のコミュニティに入っていて、オーガナイザーとして活躍していた人です。

 

■マーシャル・ガンツ博士

真田:コミュニティオーガナイジングと言えば、ハーバード・ケネディスクールのマーシャル・ガンツ博士が有名ですが。

鎌田:ガンツ博士以前にも多くの人が研究や実践を重ねていましたので、ガンツ博士自身は「自分がしたのは発見ではなく、皆の暗黙知であったことを形式知化した」と言ってます。彼の功績はコミュニティオーガナイジングを誰でも学べるように、学術的な裏付けを元に体系化したことです。ガンツ博士がまだ大学生だった時、キング牧師が率いていた公民権運動が盛んでした。その頃、黒人の人たちが投票権をもらえるようなアクションを起こすように、北部の白人の学生を南部のミシシッピーやアラバマ等に送り込んで勇気づける活動がありました。ガンツ博士はユダヤ人なのですが、その活動に参加して、弱い人たち、力のない人たちが、自分たちでアクションを起こして、力をつけて、リーダーシップ力をつけて、変化を起こしていくということを目の当たりにしたのです。そして社会運動に目覚めたのです。

真田:キング牧師の映画「グローリー」を観たのですが、あの映画にはそういう白人の存在はあまり描かれていなかったですよね?でも実はそういう人たちがいたのですね

鎌田:そうです。映画の中で「僕はスニック(SNCC)から来た」というシーンがありました。スニックの代表は黒人なのですが、裏で働いているのが、白人の学生たちも結構多かったそうです。

真田:そういうことなのですね。

鎌田:公民権運動を2年くらいした後に、自分もこういった活動にコミットしていきたいと思い、故郷のカリフォルニアに戻りました。そこでは、黒人ではない力の弱い人たちが差別を受けていました。農場労働者です。

真田:農場労働者?

鎌田:アメリカの農園は、大農園で会社が経営して非正規労働者を雇い、イチゴやキャベツ等の収穫作業や種植え等をするという感じです。必要な時に必要な人数を雇う。その当時は、ほとんど、フィリピンやメキシコ等から来た人たちでした。

真田:海外から? 移民なのですか

鎌田:そうです。アメリカ国籍があるわけでもなく、市民権とかもないのです。安い賃金で過酷な労働条件で使われていました。

彼ら農場労働者をオーガナイズするという活動に、ガンツ博士も加わったのです。

ユナイテットファームワーカーズといいますが、そこで16年ほど、オーガナイザーとして活躍していました。

真田:若かりし頃のガンツ博士ですね。

鎌田:ガンツ博士はその後に、草の根で出てきた候補者を上院議員や下院議員に当選させるという活動、どぶ板選挙的にやるようなボランティアをするキャンペーンを10年くらいやっていました。40歳半ばくらいで、自分がやってきたこと、世界のオーガナイザーがやってきたことを、きちんと体系化して、誰でも学べるようにする必要があるのではないかと気づき、ハーバード大学に戻り社会学で博士課程を取りました。その中で、コミュニティオーガナイジングを誰でも学べるように体系化していかれたのです。

 

■オバマ大統領はコミュニティオーガナイザーだった

真田:オバマ大統領の当選にコミュニティオーガナイジング手法が使われたんですよね。

鎌田:コミュニティオーガナイジングを学ぶかなりの生徒たちが選挙キャンペーン、選挙アドバイザーとしてキャンペーン等をしていました。ハワード・ディーンという人が大統領選挙に出ようとしたときに、普通の人たちをオーガナイザーとしてトレーニングして、個別訪問をしたり、電話かけをしたりして、草の根から候補者を当選させるというような手法を編み出していました。それを知っている生徒、教え子たちの一人が後のオバマ大統領で、キャンペーンのコアチームに加わり、オバマ自体もコミュニティオーガナイザーとして大学卒業後シカゴで働いていました。

真田:え、そうなんですか。オバマ自身が?

鎌田:はい、そうなんです。オバマは主に黒人のコミュニティオーガナイジングをしていましたから、人々の力をオーガナイズしていくとすごいパワーを発揮するとわかっていました。そういう候補者の理解があった上でコミュニティオーガナイジングを選挙戦に取り入れることができました。ガンツ博士は教え子たちと協同で、2日間のプログラムでオーガナイザーを育てるプログラムを作りました。そして大統領選挙の激戦区、激戦州でオーガナイザーのボランティアを育てるというということをしました。

そのボランティアたちが自分たちの会社に声掛けしたり、電話で投票をお願いしたりして、そういった活動の積み重ねが当選に結び付いたと言われています。

 

■鎌田さんとガンツ博士の出会い

真田:鎌田さんがガンツ博士と出会うまでの経緯について教えて下さい。

鎌田:もともと環境問題に取り組みたくて、環境コンサルタントの会社に就職しました。そこで活動するうちに気づいたのです。社会問題や課題に気づき、「違う」と声を上げるのは、企業ではなくて一般の人たちなんです。一般の人たちが声を上げて、それを市民社会の組織が助けて、というふうになっていると。だから、市民参加を深めたい、市民社会を強めたいと留学を検討していたところ、周りの人にハーバード・ケネディスクールが良いよと進められました。
入学していろいろな単位を取る中で、クラスは良かったのですが、実は「これを学んだら日本の市民社会が強くなるかもしれない」「市民参加が変わるかもしれない」と確信できるものがなかったんです。そこで、ガンツ博士のコミュニティオーガナイジングを取ったのですが、正直最初は半信半疑でした。しかし、ある時点で、「これだ!」と思えるようになりました。

真田:そうだったんですね。それからどうされたのですか?

鎌田:ケネディスクールは、1年間でマスターコースが終了しました。もともと1年学校、1年現地NPOで経験を積みたいと思っていたので、2年目はガンツさんに紹介して頂いた、ニューヨークで、南米からの移民の高校生をオーガナイズする団体があるのですが、そこで1年間オーガナイザーとして働きました。高校生も深刻な社会課題に直面しています。例えば教育予算がすごく削られていること、肌が黒いというだけで道を歩いているだけで警察に止められてしまうという人種差別のために、学校にいけない、バイトにいけないなど、誤解が生じて警察に逮捕されたまま出てこられない等。それらの課題を解決するキャンペーンを高校生と一緒にやっていました。

真田:アメリカではコミュニティオーガナイジングという手法や考え方は結構知られているのですか。

鎌田:一般の人はそうでもないと思いますが、いわゆるNPOやそういった市民社会の人たちは良く分かっています。彼らが言っているのは、私たちが人をオーガナイズしないといけない、そうではないと私たちの力がついていかない、と。やはり人々を支えてくれて、多くの人々がアクションしてくれるから自分たちの声が届くというのをわかっているので、そういう意識をしている人は多いです。コミュニティオーガナイザーという職業が確立しています。

■日本におけるコミュニティオーガナイジング

真田:日本でのコミュニティオーガナイジングについて教えて下さい。

鎌田:2013年に、ガンツさんに来ていただいて初めてワークショップを行い、2014年にコミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ)を立ち上げました。当時の日本ではコミュニティオーガナイジングにぜんぜん反応してくれないのではないかと思っていたのですが、「すごく大事だね」と言ってくれる方が多くて、それが驚きました。

おそらく震災の後だったので、誰かに頼る、政府に頼るというのではなくて、一人ひとりが力をつけて課題を解決していく、アクションを起こすことが大事なことだと考えてくれる人が増えたんだと思います。

真田:現在のCOJの活動について教えて下さい。

鎌田:現在COJでは、ワークショップ事業と実践伴走事業の二つの柱でやっています。
ワークショップには、誰でも参加できる「一般応募型ワークショップ」と「企業や行政から委託を受けて、あるいは委託を受けたNPOから再委託を受けて行うワークショップ」の2種類があります。

ワークショップを受けても、アクションを起こしていくと実際、様々な壁にぶち当たるので、そのリーダーを支える仕組みが必要です。それをCOJがサポートするのが実践伴走事業です。

実践伴走には二種類あり、一つはCOJのコーチが2週間に1度会ってコーチングをして支えていくという個別支援のやり方です。もうひとつはは、コーチも入りますが、オーガナイザー同士が集まって、オーガナイザー同士が悩みを話して、オーガナイザー同士がコーチングをし合うという、ピアコーチングです。

■他者のリーダーシップを引き出す

真田:コミュニティオーガナイジング、およびCOJさんの面白いところは、問題を抱えている当事者がリーダーシップを発揮するように導くとことですね。従来の発想なら、問題を抱えている大変な人を前にすると、自分がその人を助けてあげよう思います。つまり「してあげる人としてもらう人」という発想になりがちですよね。そうではなくて、問題を抱えた本人たちが自ら立ち上がり動いていく。それをCOJが支援する。自助と共助を連動させているのはすごいことですよね。

鎌田:そうですね。そこはとても大事にしていることだと思います。根本的に社会を良くしていくためには、慈善事業で助けてあげているだけでは変わらないとうのは本当だと思います。たとえば国際開発の現場でも、NGOや政府機関も住民たち自身のキャパシティを上げていくことをかなり意識して行っていると聞いています。

真田:言い方を変えると、リーダーシップのあり方のようなお話にもなると思いますが、COJが考えるリーダーシップのあり方についてお話をしていただいてもよろしいでしょうか。

鎌田:はい。COJが考えるリーダーシップはポジションではないということです。部長だから、社長だからリーダーシップがあるのではない。社会課題の解決は、解決できるかどうかわからないですよね。上手くいくかどうかわからないですが、すごく大事だから進んでいこうとする。予測がつかない中進んでいかなければいけない。皆の力を引き出しながら進んで行く方向を定めていって、皆が行動できるようにリーダーシップを発揮できるようにしていく、というものです。他者のリーダーシップを引き出すリーダーシップ。他の人のリーダーシップを引き出していくのがリーダーシップであると考えています。

真田:他者のリーダーシップを引き出すリーダーシップ。これ、すごいですね。大体、一般的にリーダーシップが強い人というのは、他者を依存させますよね。

鎌田:はい、そうですね。トランプ大統領的な。

真田:だから真逆ですよね。人のリーダーシップを封印させて、自分がリーダーシップを発揮して相手を依存させる。意図はしていないのでしょうが、結果的にそうなってしまうということが、多々あります。

鎌田:ありますね。

真田:その真逆ですね。相手の力を引き出すという考え方はサーバントリーダーシップの考えでもあります。コミュニティオーガナイジングでは「スノーフレーク・リーダーシップ」とも言いますね。

鎌田:はい。「スノーフレーク・リーダーシップ」と言い始めたのはガンツ博士です。一言でいうと、広がっていくリーダーシップです。
他者のリーダーシップを助けていきたい。たくさんのリーダーを生み出していきたい。そして、そのリーダーが自分でチームを作り、自分で作ったチームのメンバーが、さらにリーダーになっていく。そうやって連鎖的に広げていくことで運動を大きくしていくという考え方です。社会運動を紐解くと、だいたいみな、スノーフレークした感じで広がっていきます

真田:「他者のリーダーシップを引き出すリーダーシップ」や「スノーフレーク・リーダーシップ」はNPOや市民活動にとどまらず、企業においても必要ですね。

COJの活躍は、様々な場面でこれからの日本にとって必要ですね。私たちレアリゼも応援しています。是非、頑張って下さい。

鎌田:ありがとうございます。

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